池上諭さんインタビュー

2013年11月13日 | category: 卒業生


写真専攻卒業生、池上諭さんの写真展『SLOUTH』が2013年8月30日〜9月9日、コニカミノルタプラザ・ギャラリーBにて開催されました。これにあわせてお話をうかがいました。

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◉ プロフィール
池上諭 Ikegami Satoru
1984年、神奈川県生まれ。2010年、東京造形大学卒業。以後フリー
写真展
『日常にして』2009年
『この川に沿う』2011年
『SLOUGH』2013年
写真集
『SLOUGH』
ウェブサイト『Ikegami Satoru PHOTOblog』
http://ikegami-satoru.blogspot.jp/

Q: 『SLOUTH』は、日本列島を徒歩で縦断しながら撮影された写真ですが、旅で撮影しようと決めたきっかけは何ですか?
冒険家・植村直己さんの日本列島徒歩縦断を知ったのがきっかけでした。
植村さんの影響は大きくて、今回は旅程を特に決めない旅でしたが、兵庫県豊岡市の植村直己冒険館にだけは絶対に行こうと決めていました。
あとは、大学の卒業制作でZOKEI賞をいただいたことも、旅に出る良い後押しになりました。

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photo: Ikegami Satoru

Q: 旅について教えてください。
2010年5月28日から12月21日の約7ヶ月間で、北海道宗谷岬から鹿児島佐田岬までという、始まりと終わりの地点だけを決めて、歩きながらその場に応じて道を決めていきました。
20キロくらいの荷物を背負って歩いていたので、一日に歩ける距離は大体25kmくらいでした。夜は公園などにテントを張って寝たり、雨や風が強いときには公衆トイレの中で一晩を過ごしたこともありました。ちなみに、旅生活中で三足の靴に穴が空きました(笑)

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休憩をしつつ記念撮影。(北海道)このバスの中で寝泊まりしたかったが鍵が掛っており車中には入れなかった。
photo: Ikegami Satoru

旅に出る前にまず300本のカラーネガフィルムをそろえて、出発する時に80本くらいのフィルムをリュックにいれて持っていきました。撮り終えたらフィルムを実家に郵送して、新しいフィルムを近くの郵便局に送ってもらう、ということを何度かくり返してました。写真を現像したのは旅が終わってからなので、どう写っているのかわからないまま、旅を続けていました。

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photo: Ikegami Satoru

Q: 旅先で交流などはありましたか?
通りすがりの人が差し入れをくれたり、公園にテントを張って寝ていたら、前日出会った方が朝方におにぎりや温かい缶コーヒーを持ってきてくれたり、いろいろな方に助けていただきました。だまされたりもしましたけどね(笑)

Q: 今回の写真展のタイトル『SLOUTH』の意味は何ですか?
タイトルは初めから決めていたわけではなく、写真を撮り終えた後に決めました。『SLOUTH』という言葉には、抜け殻や、日常から抜け落ちた瞬間などの意味がありますが、この言葉を見つけて自分のイメージにぴったりくると感じました。

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photo: Ikegami Satoru

Q: この作品は、普段よく見る旅写真のイメージとは異なっているように感じます。
たしかに、写真に写っているものは、旅の面影などなく、とても個人的で無地名なものばかりです。
単純にそのものが面白いなと思ってシャッターを押しているんですけど、誰が使っているのかわからないようなものには、かえって感情移入しやすい部分があります。持ち主に使われていないときのそのものたちの表情、置かれている状況の違和感が、知らない人のものなのにどこか共鳴してしまうところがあるんです。

Q: 展示しているときの反応はどうでしたか?
「押すでも引くでもなく、半分だね。ちょっと覗いているような心地の良い距離感がある。」みたいなことを言ってくれた方がいました。自分の写真の中に自分でも気付かなかった形をみつけてもらえたような気がして、嬉しかったです。
あと、もともとはあまり旅をテーマにしたくなかったので、それぞれの写真に地名を付けるかどうか迷ったんですが、結局全部に入れました。でも地名を入れたことで見に来て下さった方と場所を共有できたりして、こういう見方もあるんだなあと、あらためて思ったりしました。

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Q: 今はなにを撮られていますか?
最近は山を撮っています。山の作品も今回と同じなんですが、よくみかける山の写真とは少し違って、個人的な作品にしようと思っています。
撮影を続けていると、どのタイミングで作品として区切りをつけるか、いつも悩みます。そういう意味で、今回の『SLOUTH』はゴール地点がわかりやすい形であると思うんですが、山の撮影も、何日か山にこもったとしても、山から降りれば撮影が終わるという、ゴールを決めやすい対象なのかもしれませんね。

インタビューを終えて:塚田早希
池上さんの写真は、旅人の視点で出会ったものを自分が歩く速度で撮るのではなく、出会ったものたちもまた歩いているようで、一緒に歩きながら撮っているように見えました。
今回池上さんの作品を実際に見て、写真を撮るうえでの立ち位置について考えさせられました。初めて訪れる場所だと雰囲気や風景に圧倒されて撮るというより撮らされがちになります。しかし池上さんの写真は自分の撮る位置がぶれず、被写体との間に心地の良い空間がありました。私はまだ自分の立ち位置が定まってなく四苦八苦しているので、池上さんの作品は自分にとってもすごく勉強になりました。ありがとうございました。

インタビュー・写真:塚田早希