寺田哲史さんインタビュー

2013年10月1日 | category: 卒業生


写真専攻助手、寺田哲史さんの写真展『Water Balloon 不可解な部位』が、2013年9月3日~9月8日、TOTEM POLE PHOTO GALLERYにて開催され、会場でお話をうかがいました。

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◉ プロフィール
寺田 哲史 Terada Satoshi
1982年 静岡県静岡市生まれ
東京造形大学デザイン学科写真専攻 高梨豊ゼミ卒業
人間の様々な欲望、おもに身体や食肉をテーマに写真作品を制作している。
http://terrapan.net/

Q:このギャラリーを選んだのはなぜですか?
同級生や後輩がよくここで展示をやっていて、以前から頻繁に来ていたんです。白い壁面が全体にあって、木の床で天井が高くて、空間的に自分の作品にフィットしているとずっと思っていました。あと、外には町工場が並んでいて、そのギャップも面白くて好きなところですね。

Q:今回の写真展のタイトル『Water Balloon 不可解な部位』はどんな意味ですか?
直訳すると水風船ですが、昔から人の身体に対して水が入った袋というイメージを持っていたんです。そういう肉体のイメージからこのタイトルにしました。
展示についても、身体の瑞々しさを伝えるために、印画紙の潤いを感じるバライタ紙を使いました。また、プリントの質感をそのまま見てもらえるように、マットとガラスをはさまずに展示しました。

「Water Balloon」不可解な部位

Q:作品のコンセプトを教えてください。
学生の頃に何度か食肉加工場の取材をしているんですが、そこに肉の塊がいくつかに切り分けられて保管されている場所があるんです。そこを見たとき、さっきまで名前がついてわかっていた物が、まったくわからない物に変わっていると思った。切り離されたことによって、自分の理解をこえた物になってしまったというか。あの感覚をなにかでやりたいなって気持ちがずっとあって、切り離されることの不可解さを人間の身体を通して表現したいと思っていました。
コンセプトとしては、人の身体を『部位』という感覚で撮っています。『部位』というのは、たとえば肉でいう『肩ロース』のようなものです。

Q:もともと肉に興味があったのですか?
食べるということ全般に対して興味があって、畜産や食肉加工場のドキュメンタリーとか、人は何を食べているか? という内容のドキュメンタリーとかも好きでよく観ていました。大学に入る前からイタリアンレストランの料理人として2年くらい働いてましたし、学生時代もアルバイトでフレンチや、洋食屋さんなど、幅広く食に関わっていました。その中でも肉感というか、肉そのものが子供の頃から好きでしたね。

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THE TOKYO ART BOOK FAIR 2013に出品された写真を使ったオブジェ作品。中央の肉がピンバッチになっている。

Q:カメラは何を使っていますか?
ローライフレックスです。二眼レフなので近寄るとパララックス(視差)があって、微妙にずらしながら撮っています。撮ってる時は、いいのが撮れたかどうか感覚的にはわからなくて、沢山撮るしかないですね。できあがってから的確な一枚を選んでいます。
撮影時間はだいたい2~3時間くらいです。ブローニーフィルムなのでそんなに大量には撮れなくて、10本から15本くらいで打ち止めって感じですね。

Q:ピントが独特な感じににみえますが。
ピントを合わせているのは肉体のアウトラインなんです。バルーン的なイメージというか。ああいう膨らんだイメージをできるだけ撮ろうと思っています。どうやったら膨らみをだせるんだろうか? と、考えながら撮っています。

Q:モノクロ写真にしたのはなぜですか?
色の情報量ってとても強くて、特に人の身体だと連想してしまうことが増えてしまうので、今回は、できるだけ情報量を限定していくことがテーマのひとつとしてありました。不可解な要素を増やしてわからなくさせるために、モノクロのほうがいいかなと思いました。

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Q:どのように撮影していますか?
モデルは一般の方で、基本的にはまったく知らない人のことが多いですね。インターネットで探したり、知り合いの知り合いを通じて依頼しています。
人の身体ってほんとうに千差万別で、肉の付き方や関節の長さが違うんです。
撮影する『部位』はそれぞれで、その人の身体の特徴的なところや、ちょっと異質な部分を撮っています。

Q:こういうイメージを撮り始めてどれくらいですか?
3年半くらいになります。学生時代はデジタルカメラで友だちのポートレート的なヌードとか撮ってましたが、こういう感覚で撮りたいと思ったのは卒業してからです。
最初は、男性的な目線というか性的な感覚を引き起こすような写真が撮れてしまっていたんですけど、なるべくそういう写真は撮らないように、お肉屋さんが肉を見る感覚で、あまり感情を持たずに視線を向けていくというトレーニングを続けました。それを続けていくのはしんどかったですね。

Q:今回の写真展を通して感じたことや、今後の展開はどうですか?
自分の持っているイメージを人に伝え、作品の完成度を高める為のセレクトと構成、写真表現の根幹とも言える部分ですが、ここがまだまだ不十分なので、これから追求していかなければならないと思っています。
今後の展開としては、今回の作品をさらに撮りすすめていくほかに、家畜の皮膚や肉、屠畜されていく過程を本格的に撮影していきたいなどと考えています。

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ー 助手について
Q:寺田さんは今年の4月から写真専攻の助手として大学に来ていただいていますが、おもにどんな仕事ですか?
基本的には、機材の貸し出しと、授業の補佐、スタジオと暗室の管理、という3つがありますが、中里先生からは「写真専攻では初めての助手起用なので、機材管理や施設の運用に関しての仕事が中心になるわけだけど、在学生とのパイプ役も含めて、今後仕事をする中でより明確にしていこう」と言われてます。
助手を始めて半年が過ぎましたが、学生たちもすごくフレンドリーに接してくれるので、楽しく日々を過ごしています。

Q:暗室の入口にある助手室の居心地はどうですか?
大学に迎え入れてもらえている感じが嬉しいですね。毎日機材に囲まれてすごく快適です。

Q:ちょっと雰囲気が病院の受付みたいですよね。
たしかに(笑)白衣着てますし、現像液とか薬も扱ってますし、蛍光灯の光なんかも、ちょっと病院ぽいかもしれないですね(笑)

左、安部雅彦さん。写真専攻の学生が機材を借りるときにいつもお世話になっている。学生にとってはお父さん的存在。

左、安部雅彦さん。写真専攻の学生が機材を借りるときにいつもお世話になっている。学生にとってはお父さん的存在。

Q:工房(機材管理室)の安部さんとはどういう連携をとっていますか?
僕が学生の頃から安部さんは、先生や学生とのパイプ役、受付管理、その他暗室のメンテナンスなどを中心的にやっていらして、いつも忙しそうでした。機材借りたいけど、安部さんが見つからないから、もう面倒臭いやって(笑)なっていました。僕の役目は、学生たちへの機材や施設の運用がスムーズにできるよう、暗室やスタジオに詰めてるので、そこはきちっと守っていきたいなと思っています。

Q:スタジオや暗室のメンテナンスで気をつけていることは?
スタジオは掃除やホリゾントなどを時々塗り替えたりする程度で、どちらかといえば暗室がメインでやっています。気をつけているのは、引伸し機の管理で、まず埃をなくすこと。それと暗室はとにかく湿気がこもりがちなので換気を十分にしています。あとは、常にレンズをきれいにするとか、コンタクト用のガラスの板に指紋がついていないようにとか、学生が暗室を使ううえでストレスになる要素をできるだけ取り除いていきたいと思っています。

Q:前期最後の打ち上げで、料理人ならではの手料理を披露してくれましたね。おいしかったです。
ありがとうございます。ほかにも学生企画のBBQのサポートをやらせてもらったり、料理の経験は学生とのコミュニケーションにも役立ってますね。でも、打ち上げでは、洋食が得意だっていってるのに、先生方のオーダーが手巻き寿司でしたね(笑)

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Q:寺田さんの学生時代と、いまでは何か変わったことがありますか?
僕が学生だった頃は、素朴に写真家になりたいという気持ちを持っている人が一定数いたんですね。今の学生はそういうこだわりはあまり感じられないんですけど、でも楽しく撮影していきたいっていう気持ちは一致していると思います。
僕が造形大の4年間で教わったことは、技術というよりは前進していくエンジンというか、同じような緊張感、バイタリティで創り続ける、その意識を4年間で叩き込まれた気がしますね。とにかく撮る、発表するということを繰り返すしかないんだという。そこには高い希望とか望みとか、あるいは、がっかりしたとか過小評価とかあるかもしれないけど、そこは置いておいて、まず僕たちは撮り続けて発表するしかないんだよ、ということを何度も教えられました。卒業してからは、意識的に写真と関わっていくしかなくて、フェイドアウトしてしまうことも多いんですけど、撮り続ける気持ちがずっと残っていたので、なんとかしがみついて写真と関わってきました。
同級生もがんばって撮影を続けていて。昨日も集まったんですけど、「まだ撮ってるよ」って、「今度コンペに出してみようと思ってるんだ」とかそういうヤツがいて、頼もしいです。
今年は同級生の写真展も多くて、お互い刺激し合えてます。

ありがとうございました。

インタビューを終えて:藤井カイリ
ヒトの体という最も身近な対象を写したものながら、そこに現れる見慣れない奇妙な空間。遠近感の曖昧な肉体迷宮をさまよい歩く気分は何とも言えません。モノクロであることが逆に、肉を見つめ続ける寺田さんの視線を明確に伝えているように感じました。

2013年9月7日 TOTEM POLE PHOTO GALLERYにて
インタビュー:首藤幹夫
写真・構成・文:藤井カイリ