はじめての暗室(写真基礎授業レポート・1)

2012年5月16日 | category: Basic Class


新しく迎えた写真専攻1年生が、まっさらの白衣を着て、白黒フイルム現像に取り組んだ。

ほとんどが初体験とあって、広い暗室の中が「緊張」と「わくわく」が入りまじった高揚感が漂った。毎年新入生を迎えるこの時期は、教える側も、あれもこれも知っておいて欲しいと、ついつい欲張ってしまう。まず、つかんでほしいのが、写真が成立する化学的なイメージだ。銀を塗ったフィルムに光が当たると、その部分に潜像核という光を閉じ込めた物質が生まれる。その潜んでいる光の像を、現像→停止→定着反応で安定的なネガ像を作り出すのだ。市販されている現像液などはすでに薬品が調合済みなので、実際どんな薬品が混ざっているのかを、上皿天秤を前に実感してもらう。

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現像液は、液温計を使って20度Cに合わせる。理科の実験をやってるような雰囲気だ。

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光と銀のドラマを「光銀事件」と呼んだ人がいて、なるほど、写真の本質をズバッと言い得ていると思ったことがある。写真は、目の前に広がる光景をなんとか形に保存したいという数千年にわたるあくなき欲望が、やっとの思いで実った証(あかし)だということを、フィルムを知らないデジタル世代の学生に知ってほしいと思う。さっと出てくるデジタル画像よりも、相当面倒くさいのは当たり前なのだ。

さあいよいよフイルム現像の開始だ。時計を見ながら、液を素早く入れる。液の順番を間違えないで!

液を入れたら撹拌する。一瞬、ここはガールズバーかと錯覚する。私も、写真をやり始めてすぐ、暗室に入るのが楽しくて楽しくて、一日20時間位入っていたこともある。全身、酢酸の強烈な臭いに包まれて、まわりの人に、「頼むからあっちへ行ってて」って、よく言われたもんだ。最初は、ピンクフロイドなどのプログレッシブロックを聴きながらやっていたが、あるとき打って変わってバッハの「ゴールドベルグ変奏曲」のチェンバロ演奏に変えたら、まるで「銀河」に突っ込んで行くようなハイテンションを経験、それ以降「暗室にはバッハがよく似合う」と広言してはばからなかった。新1年生が、銀河ステーションに通うような感覚で、暗室を好きになってくれることを願っている。

担当教員 大西成明