2015年9月9日 | category: イベント
東京造形大学50周年記念事業として、ZOKEI教育展「和紙のはたらきかけ」を開催いたします。
このページでは写真専攻に関する情報をお知らせしていますが、イベント全体の詳細は東京造形大学付属美術館ページをご参照ください。
http://www.zokei.ac.jp/museum/
イベントフライヤー/写真左:西村陽一郎「チューリップ」2011
ZOKEI教育展「和紙のはたらきかけ」
2015年9月21日(月)22日(火)25日(金)26日(土)
会場:ZOKEIギャラリー(大学院棟12号館1階)
開場時間:10:00-17:30(*入場17:00まで)
主催:東京造形大学創立50周年記念事業委員会
共済:東京造形大学付属美術館
協力:東京造形大学校友会
「海に還る舟を見送る」
きわめて個人的な歴史の諸相はヒトの普遍の現れだろう。
誕生、怖れ、歓喜、悲哀、欲望、そして死ぬということ。
「海へ還る舟を見送る」シリーズは、私の個人史である。
どこかの誰かが、私と同じように、
喜びと悲しみに身をやつして死んでいったことは想像に難くない。
写真活動の最後に“私史”を作品としてまとめることを、もう、
ずいぶん以前に考えていた。
こうした漠然とした創作欲が動き出すには、きっかけが必要である。
“まとめ”の意欲は心の隅で生きつづけていた。
その動機は唐突に訪れた。
2011年3月の津波と原発事故が契機となった。
震災から六日目の陸前高田で、失われた多くの命を目の当たりにした。
その誰もが、ありふれた日常を背負ったまま逃げ惑い、絶命していた。
身勝手なことだが、私は凄惨な現場を歩きながら、
自分の日々が愛おしくてたまらない感情に支配されていた。
「ごはんまだ」「お風呂さきにどうぞ」などといった、
記憶することもない日々に、幸福の層が横たわっていることを思い知った。
その気づきは、自分の死を身近に引き寄せたことでもあるだろう。
「おまえ、とうとうしってしまったのだな」
そんな声が聞こえたような気がしている。
幸福のありかを知ることが、それまで不可知に過ぎた死に輪郭を与えた。
誕生、怖れ、歓喜、悲哀、欲望といった暮らしの層に、死も横たわっている。
悟りとは、平気で死を迎えることではなく、平気で毎日を生きること、と
書き記したのは正岡子規であった。特別なことがあるわけでもない日々を、
丹念に生きて、平然と死を迎えた詩人である。
誠にささやかな日日のできごとを写し取っていくことに
私の写真を見出したのだ。
きわめて個人的な歴史の諸相はヒトの普遍の現れと捉えた。
“私史”のまとめに拍車がかかる。
宮嶋康彦プロフィール
1951年、長崎生まれ。写真家、作家、東京造形大学講師。
写真と詩、写真と小説、写真とノンフィクションなど、写真とあらゆる文芸を融合させることで、独自の表現形式を創出している。また印画紙には原料の楮(こうぞ)から育てた自らの手漉き和紙を使用。1985年、ドキュメントファイル大賞受賞。著作には「母の気配」「自然」「水母音」「写真家の旅」「脱『風景写真』宣言」などがある。
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ハイブリッド授業「写真Ⅰ」成果展
ハイブリット科目「写真Ⅰ」(担当:西村陽一郎)では、写真の原理を理解する一つの手段として、カメラ以前の、カメラを使わない写真表現を学んでいます。そして最後に、その発展・応用編として、今回展示した作品群のような、デジタル機材を使った「スキャングラム」と呼ばれる技法にも取り組んでいます。
これらの作品は、スキャナを使った写真です。本来はネガやポジなど、フィルム状の原稿をセットする場所に被写体を直接置いて、透過原稿を読み取る機能で撮影しています。透過光(逆光)で写すため、背景は無地となり、そこに被写体の姿が浮かび上がります。ポジ用のモードを使えばそのものを透かした色がそのまま写り、ネガ用のモードを使えば明暗と色が反転し、補色が写ります。プリントにはインクジェットプリンタを使い、和紙に出力しました。パソコン・スキャナ・プリンタなどデジタル機材を使いながらも、和紙のおかげで、落ち着いた色彩、温かみのある雰囲気に仕上がりました。
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4年前の3.11以降、私は身近な花々を写す機会が増えました。チューリップは震災直後の重苦しい空気と、どうしようもない日々の不安の中で、ふと買い求めた一本です。枯れてしまってからも捨てられず、長いこと花瓶に挿したまま飾っていました。タンポポの綿毛は、よく息抜きに行く近所の公園の、ベンチの裏にひっそりと咲いていました。それを手折って持ち帰った際、こぼれ落ちてしまった種たちがとても愛おしく、写真にしました。
西村陽一郎プロフィール
1967年東京生まれ。写真家。美学校、東京造形大学講師。美学校で写真を学び、現在に至るまで多種多様なフォトグラム作品を制作し、その作品での第一人者。「ホタルとホタルイカ」マキイマサルファインアーツ、「道端の花」森岡書店、「身体のフォトグラム」禅フォトギャラリーなど写真展多数。著書に写真集「LIFE」がある。
参考リンク:西村陽一郎先生インタビュー
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石田宗一郎展(写真専攻4年)
「室外機」
街の風景の一部には。必ずエアコンの室外機があります。
一部屋に一台、大量の室外機が今日も働いています。
人々は健気に働く彼らの恩恵を受けるものの、一向に見向きはしません。それどころか、道行く人に煙たがれることさえあります。
しかし、街にあふれる室外機をたくさん見ていくにつれ、現代的な生活の象徴のように感じられ記録してみることにしました。
このシリーズでは、現代都市のランドスケープとして表したかったので、数々の室外機の肖像を類型的に撮影しました。
最終的な表出方法としては、日本古来の和紙を使ったインクジェットペーパーにプリントすることで、人々の生活の気配や温度、湿度なども表せ、室外機へのクールな視線が立体的な表現として記録できました。
石田宗一郎
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トークセッションイベント
「和紙に転写された私史 – 楮(こうぞ)栽培から写真表現へ」
日時 2015年9月26(土)14:00-16:00
会場 ZOKEIギャラリー
講師 ゲスト:宮嶋康彦(写真家、作家、東京造形大学講師)
司会 中里和人(東京造形大学教授、本展企画者)
*入場無料 予約不要
自ら楮(こうぞ)を栽培し、手漉き和紙にオリジナルプリント制作を行い、素材としての印画紙の特性を十全に活かす表現を試みてこられた宮嶋康彦さん。その和紙制作工程を含め、これまで発表されてきた和紙作品のスライドショーと、会場内の展示作品を見ながらのトークセッションを開催します。アナログ的な手法や素材としての印画紙が減少していく中、和紙での写真表現の可能性や新たな記録性や表現性を、インタラクティブな関係性として語り合います。
参考ページリンク:宮嶋康彦先生インタビュー