中里和人先生インタビュー/大地の芸術祭 

2012年9月10日 | category: Teaching Staff


「越後妻有アートトリエンナーレ2012 大地の芸術祭」にて、中里和人先生にインタビューしました。

『太古の光〈表層 トンネル〉 The ancient lights』
場所:Soil Museum もぐらの館 十日町エリア 旧東下組小学校
会期:2012年7月29日(日)〜9月17日(月祝)
時間:10:00〜17:30
入場料:500円(パスポートを購入した方は入場料はいりません)
開催地:越後妻有地域(新潟県十日町市、津南町)
主催:大地の芸術祭実行委員会
アート作品数:約360点(うち過去開催恒久作品160点)
参加アーティスト:44の国と地域、約320組(約180組新規)
イベントの詳細は、美術出版社から発売中の「大地の芸術祭」公式ガイドブックが便利です。
トリエンナーレ公式サイト
http://www.echigo-tsumari.jp/
トリエンナーレ参加作家最新リスト
http://www.echigo-tsumari.jp/news/2012/05/news_20120502_01

トリエンナーレの展示について

越後妻有のトリエンナーレは今年で5回目、15年目を迎えて、地方で行われるアートイベントとしては、たぶん草分けというか、はしりのほうだと思います。広いエリアで数多くの作家が野外や室内などいろんなところで展示やワークショップ、インスタレーションを行っています。
僕が参加しているのは、十日町の北東エリアにある廃校になった元小学校。
学校全体をソイル(土の)ミュージアム『もぐらの館』と名付け、そこに何人かの建築家やアーティストが集合して「土」をテーマに、作品を見せるコンセプトです。

このイベントに参加したきっかけは、僕の昔の作品に日本の温泉場を撮ったシリーズがあって、これは○○地獄と呼ばれているようなところ、つまり地球の表層、素肌をずっと撮ったものですが、これを展示して欲しいというのが最初の依頼でした。

最初は温泉場のシリーズだけと思っていたんですが、ちょうどいま新しいテーマとして房総の素堀トンネルを撮っていて、それも地表の中に入っていく世界そのものなので、ジョイントしてやりたいと言ったら、”広がりがあるから良いね”ということでやることになりました。
でも新潟でやるからには現地でも何か撮って加えたいなと思っていたら、新潟にも素堀のトンネルがある事がわかってきたんです。ちょうど雪解けの頃にトンネルをいくつか発見して、中に入ってみたらこれが物凄く面白くて、しかも予想を超えて数もありました。
房総とはまた違った野性味があって、越後の素堀トンネルは、どこかワイルドなんですね。
トンネルの中には川が流れているのですが、房総では「川回し」と呼ばれ、新潟では「川瀬変え」とか「瀬変え」と呼ばれていました。要するに川の道筋を変えて水田を作ったり、あるいは地滑りを防止したりする役割をするんです。それを新潟では特に「間府(マブ)」って呼んでいます。この越後のマブと房総の川回しが偶然にも地底の底で結びついちゃったんです。

日本全国いろいろ調べてみましたが、たぶん素堀トンネルが最もあるのが房総で、次はこの新潟なんじゃないでしょうか。だから横綱級の二つがたまたま結びついて、しかも新潟の中でも、アートイベントの行われているあたりにしかないんです。自分が今やってる事がピンポイントで繋がったのは不思議でした。
さらに、今回の小学校の地域交流会でプレゼンテーションをした後に地域の人から「ウチの田んぼにもある」って言われて、次の日おじさんの軽トラの後ろについて行って案内してもらったら、あるわあるわ・・・(笑)
今回の会場である小学校のお膝元、歩いていけるところにもマブがあって、それはもうこの地に呼ばれたとしか思えない。
こういうシンクロする感じが僕は凄く好きです。こういうシンクロ感が表現を飛躍させる。加速させるんですね。

「光」について

素堀トンネルというのは、人が土や地層に果敢に挑戦したアプローチの痕跡だと思うんです。そういう歴史的な景観でもあるし、土木遺産でもあると思うんです。もうひとつ僕の中で大事にしている今回のテーマは「光」です。以前出版した闇を撮った写真集『ULTRA』的なことができないかと思ってトンネルに入って行ったら、逆に光に出会ってしまいました。闇の中なんだけれど、そこに身を置くと外の光に敏感になって、光の事を強く考えるようになるんです。そこで「トンネルは光を見る装置なんだ」と思いました。

光の中に人が生まれて、死に際しては人間の脳は光を見るように仕組まれていて光の中に消えていく。光というのは生と死が全部集約された世界で、象徴的なものでもある。そして、実際に世の中に一番溢れているのも光です。光そのものを捕らえようというのは難しいんですが、トンネルみたいな狭い小さな空間に入って閉じこめられる事によって、凄くリアルに鮮明に見えたり感じられたりするのです。今回はあえて闇に重点を置くのではなく、トンネル=光として展開しています。

ふんだんにあるエネルギーであり、エレメンツである光というものは、日常的には感じづらいんですね。だからもう少しリアルに、光そのものを感じるということが大事なんじゃないでしょうか。今回の写真インスタレーションのメインテーマとして、光を感じられるような表現ができていれば良いなと思っています。
テーマは「光」、太古から未来まで変わらぬ光の中にある。タイトルは『太古の光(表層 tunnel)』としました。

展示の構成について

全体は3部構成ですが、まず最初に、1階から2階へ上がる階段の踊り場に映像作品を投影しています。
これは、トンネルの中のような暗さから明るい光の中に消えていくというループの映像作品です。
その映像の中をくぐって2階の教室に出ると、新潟と房総の素堀トンネルの写真をインスタレーション的に空間構成しています。ここがメイン展示です。学校にあった雪囲いの横板を借りて、それをモチーフにしながら会場を構成しました。
2階から3階へ行く階段には日本の温泉場の地べたを撮ったシリーズの写真を展示しています。

ホワイトキューブ、白いギャラリーが写真にとっては一番シンプルで、表現をしっかり伝えることができる空間であるというのは言うに及ばずなんです。ただそれとは違う発想で写真を見せられたり、地域の中での様々なアートの可能性みたいなことが実験的に出来るのが、こういう地方でのアートイベントの面白さだったり意義だったりするんですね。
会場である小学校の歴史、環境、集落の風景なども組み入れ、展示空間をフルに視覚的な表現として展開できたら、かなりの広がりというものが出来るんじゃないかなと、自分なりに考えながら進行しました。
写真表現の内容は言うにおよばず、写真の展示から生み出される、新しい表現や地域交流での可能性を模索する時代に来ていると強く実感しています。

―ありがとうございました。

今回我々、web担当も新潟のトリエンナーレに同行しました。会場の様子を見学したり、アーティストの方達と作業を協力して楽しい時間を過ごしました。特に「マブ」といわれる素掘りトンネルに直接入り、現場でしか味わえない空気や空間を感じたことは、いい思い出になりました。新潟は食べ物やお酒も美味しいので、行ってみると面白いと思います。

文・構成・写真:石井剛樹、広瀬直彦
写真:吉橋悠生/平本倫子、安井咲

関連リンク

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