2021年8月14日 | category: Teaching Staff
Ken Kitano “Others from the Future|Quiet hand”
2021年8月17日(火)〜31日(火)月曜休廊
13:00〜19:00
東京都渋谷区恵比寿1-18-4
NADiff A/P/A/R/T 3F
https://mem-inc.jp
「未来の他者/Others From The Future」よりN3 2018 type C print 1960×1270mm
この作品は乳児のフォトグラムである。フォトグラムはカメラやレンズを使わないで撮影する。カラー印画紙の取り扱いは完全な暗室で行う。だから赤ちゃんがどの位置で、どんなポーズをしているのか、現像して、像が現れるまでわからない。モデルになってくれたのは、生後2ヶ月から6ヶ月くらいまでの赤ちゃんたちである。
きっかけは、美術館で私の以前の作品を見た産婦人科の医師との出会いだった。ドクターから「赤ちゃんをテーマに作品を作ることに興味はありますか?協力しますよ」と提案を頂いた。それから時々クリニックに通って、生まれたばかりの赤ちゃんを撮影させてもらうことにした。
つい数時間前まで「この世界」にいなかった命と対面するのは不思議な体験だった。続けているうちに、こんなことを考えるようになった。赤ちゃんたちはどこから来たのだろう?赤ちゃんたちが「この世界」に来る前にいた世界はどんな世界なのか? 自分もいつかそこに戻っていくのか。(その時クリニックで撮影した赤ちゃんたちと、本作品のモデルは異なることを記しておく。)
(写真集『未来の他者』より)
写真集『未来の他者』刊行(68頁,税込1,980円 Bookshop M) 会期中MEMおよびNadiffにて先行販売します。
「密やかな腕(Quiet Hand) : 私の右手/日常」 コンクリート、インクジェットプリント 47×10×8cm
非常事態宣言という言葉に今はだいぶ慣れてしまった。2020年の前半は、本当に緊張しながら過ごした。”ステイホーム”の日々。私の家族は86歳の母、妻、大学生の娘と私。基本的に自宅の中のみの日々だったが、日に一度、近所の玉川上水の緑道を1kmほど散歩した。
家の中側と外側の分断を感じた。それとウィルスという厄介なものを思う時、身体の内と外の境界も感じずにはいられなかった。そんな日々、家族や日常を写真に撮った。自分でも意外だった。僕には日常なんてずっと“彼方”だったから。
家族に協力してもらったことがもう一つあった。身体の一部を型取りすることだった。全員の手をコンクリートで成形した。写真と同じネガとポジ。コピーされた身体の一部に乳剤を塗って写真を焼きつけたり、プリントをコラージュした。動画も少し撮った。そんなわけで僕のステイホームは結構忙しい。
家の内側が”世界”になってしまった。一見平穏だが、その”世界”はアクシデントに満ち満ちている。
家の中で静かに見える世界も、耳をすますと、誰かの声や、生活音、動物の声、もしかしたら遠くの悲鳴や、不吉な音もそこに混じっていそう。そんな人に知られない、密やかな時間が、今もあちこちに流れている。