2022年度・写真演習B(エリアスタディ)活動の記録

2023年3月31日 | category: Area Study


2022年度 写真演習B(エリアスタディ)活動の記録

テーマ:「風景のカタチ」

2022年度は、東京都墨田区向島エリアを研究対象とした。既に2017年度、向島において戦前から現存する長屋などの景観資源を継承することをテーマに、地域の方々や他大学との連携を行い、エリアスタディの授業を実践したことがあった。
今年度は、2017年度に協力していただいた方々の力も借り、10月に向島で開催されたアートイベント「すみだ向島EXPO2022」に参加し、より広く地域社会と交流しながら、社会連携を通じた研究実践をした。

4月:すみだ向島EXPO2022の代表の後藤大輝氏、墨田区役所の山田格氏から、町の魅力、各所イベントなどの情報共有をさせてもらった。

5月〜7月:向島エリアをフィールドワーク開始。地域特性をリサーチしながら撮影を始めた。
「多聞寺交流農園」で、向島の伝統野菜寺島ナス保存運動を行う牛久光次氏を訪ね、江戸時代の向島の話、地域の食文化を残す意義、保存イベント活動などの話をうかがった。

9月:「すみだ向島EXPO2022」の会場候補になった長屋などの下見を行う。オルタナティブな場空間を読み解き、地域の景観資源のデザイン化へむけたスタートをきる。

10月:アートイベント「すみだ向島EXPO2022」に参加。
成果展(1)「風景のカタチ」写真展(2022.10.1〜10.31)とスライドショー(2022.10.28)を開催。地域住民の方々から、写真の記録生、表現性についてコメントをもらった。向島での地域の景観資源を風景の力として作品化し地域住民との交流を行った。
長屋などが多く残る、向島の景観特性と歴史性を読み込んだ、サイトスペシフィックの概念展開をすることができた。
中野夏希の作品は、展示会場の前で暮らす老人のドキュメントで、会場に時折当事者のご老人が来られ、土地に根付いたユニークな展示となった。山田龍の作品は、居酒屋だった店舗空間を読み解き、向島の軒先によく置かれている水槽を地元で借りて、その水槽に町の光景を幻のように写し出す優れたインスタレーションになっていた。

成果展(2)ZINE展「風景のカタチ」を開催(2022.10.22〜11.11)。東向島にある玉ノ井カフェを展示会場に15名が展示。さまざまな向島の景観資源が写真集となって、町の住人に届けられた。

成果展(3)老人施設「東京スマイル」で、高齢化社会の中で写真を使ったコンテンツを提案するスライドトークショーを開催。向島の写真を見てもらうことで、お年寄りの記憶の断片が語り出され、学生の撮影した築90年の戦前の長屋などの建築景観を見たことで、戦争の記憶が語られ、やがて施設にいた三名の方の記憶と重なり立体的な史実が浮かんできた。そこでは、生き生きと過去の体験を話す老人の方々の原風景が蘇り、写真が記憶を喚起させる力を持つことを実感することができた。参加した保坂茜の弾き語りのライブもあり、映像と音楽が融合した発表ともなった。

12月:写真専攻出身で、動画制作会社を運営する新井延幸氏を迎え、今年度の「すみだ向島EXPO2022」記録制作担当した動画を見ながら、地域社会とアーティストの関わり方を振り返り、地域デザインとは何かをディスカッションした。

成果展(4)スライドショー「風景のカタチ」投影会。
民間企業や区役所、自治会との社会連携事業として、防災団地の壁面にプロジェクションし、地域住民の方々と写真を通じた交流を実践した。高さ20メートルほどの防災団地の白い壁面がスクリーンになり、超大型プロジェクションとなった。墨田区役所、白髭団地自治会、株式会社グラパックジャパン、すみだ向島EXPO2022実行委員会の協力のもと、夜の街頭上映会を実施した。小学生からご老人まで、多くの通行人が足を止めてスライドショーを見てくれ、町の景観を町の壁面で見る地域デザイン化の提案ができたのだった。

社会連携先一覧:すみだ向島EXPO2022実行委員会、東京スマイル株式会社、株式会社グラパックジャパン、玉ノ井カフェ、墨田区役所、白髭団地自治会、多聞寺交流農園

担当教員:中里和人、榎本祐典