2016年3月19日 | category: Teaching Staff
地名(ちめい)は文化であり、風土を統括した貌を持つ。人々の暮らしに寄り添い、一人ひとりの命と歴史と交差している。2006年ころから、作者は国内各地の心ひかれる地名を旅してきた。古い土地の名前が消滅していくことへの危機感もあった。
初めて訪れる町の、初めて触れる土地の名前は、どこか、懐かしさを伝えた。おそらく、靴底が土地の来歴に触れるからに他ならないからだろう。
日本の各地を歩きながら、なんども作者が訪問することになったのは山陰の村里であった。鳥取と島根には、記紀神話を背景にした、日本の原形ともいうべき地名が受け継がれている。「八雲」「夜見ケ浜」は神話的だが、「森坂」「鵜峠」などは土地柄を表し、「神庭(かんば)」「八雲」には日本人の心性が表れている。そしてなによりも、いつの間にか作者は、地名を詩のように感じるようになった。
撮影した肖像写真が女性なのは、その母性が出雲と伯耆の産土神と婚姻をし、はらみ、産み、生きる人々という幻想の所産である。
銀座ニコンサロン
3/16 (水) ~3/29 (火)
10:30~18:30(最終日は15:00まで)
会期中無休
宮嶋 康彦(ミヤジマ ヤスヒコ)
1951年長崎県生まれ。文章の富と写真の富を融合させて、新たな富を創出する試みを続けている。原料の楮(こうぞ)から育てた自作の手漉き和紙に、プラチナプリントを行う作品を制作。
受賞歴に、85年「ドキュメントファイル大賞」がある。主な著作に『脱「風景写真」宣言』、『写真家の旅』、『汎自然』、『母の気配』などがある。宮嶋康彦写真塾主宰。立教大学異文化コミュニケーション研究科兼任講師を歴任。東京造形大学写真専攻領域講師。